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2024.07.30 猫伝染性腹膜炎(FIP)

当院のFIP治療成績について(2024年7月時点)

以前に比べて多くの病院がFIP(猫伝染性腹膜炎)に対する抗ウイルス薬を使用されるようになり多くの病院で治療が可能になったことは非常に喜ばしいことです。
しかしながら、病院によって治療実績は様々で残念ながら生存率や再発率に大きな差があると言わざるを得ません。

またまだまだFIP治療は100万円、200万円かかると言われていることがあり実際の治療費が不明瞭なため費用面で治療を断念せざるを得ないケースがあることも問題だと思います。加えて動物病院は自由診療ですので、薬剤費用についても使用薬剤が同じでも病院によって大きな隔たりがあるようです。

まだまだデータの少ない分野ですので、ある程度実績のある病院として情報をお伝えすることも大切であると思い当院の治療実績を簡単にまとめました。

”当院の”レムデシビル・GS-441524錠での治療
100例の治療成績
 生存率:92/100例(92%)
 再発率:2/100例(2%)

治療選択の内訳
・レムデシビルで治療を開始:49例
  生存率:42/49例(85.7%)
     再発率:2/49例(4.1%)

・GS-441524錠で治療を開始:51例
  生存率:50/51例(98.0%)
  再発率:0/51例(0%)

”当院の”モルヌピラビルでの治療 
20例の治療成績
 生存率:20/20例(100%)
 再発率:0/20例(0%)

*いずれも初回治療の症例をまとめた結果です。再発例、再々発例は除いています。
*治療成績は診断、全身状態、治療選択、使用薬剤(製品)選択、投薬・調剤方法、治療経過判断など様々な要因に左右されます。本成績は当院の治療実績であり、同等の薬剤を使用しても必ずしも同等の成績が見込まれるものではありません。

2024年7月時点でのおおよそのまとめです。生存率については症例によって大きく左右されるためあくまで参考です。

大切なことは、獣医師がいかに猫ちゃんの状態を正しく判断し、適切な剤型(錠剤なのか、注射なのか)や適切な薬剤を選択するかだと思います。それにより救命率は変わってきます。

当院においては内服薬でも治療可能だと判断した場合にのみ内服薬を適応しており、そういったケースでは上記の結果の通り、まず亡くなってしまう可能性は極めて低いです。亡くなってしまう可能性が十分に考えられるケースに内服薬は適応するべきではありません。

人の新型コロナウイルスの治療ガイドラインでも、レムデシビルは中等症〜重症が適応になるのに対し、モルヌピラビルは軽症〜中等症が適応となり中等症〜重症例では推奨されていません。


【参考】COVID-19外来診療の基礎知識(「新型コロナウイルス感染症COVID-19診療の手引き第10.0版」別紙)

GS錠の治療で1例のみ亡くなっていますが、これは様々なご事情により注射での治療のための入院治療が困難であったことが要因ですが、注射のレムデシビルの治療をもっと強く選択するべきであったと反省している症例です。

少なくとも現時点(2024年7月)では、重篤と思われる状況(全身状態が悪い、重度な神経症状や消化器症状、合併症があるなど)ではレムデシビル静脈注射のみ(皮下注射もダメ)が選択になると思われます。症例に応じて適正な治療選択をすることで、当院では生存率を90%以上を達成しています。

再発率については治療薬の取り扱いと治療経過の判断が非常に重要です。薬剤の適切な処方と治療経過の判断をしっかりと行えばほぼ再発することもないと思われます。それでも数%再発するケースがあるのでそれを今後以下に減らすことができるかが課題です。

レムデシビル・GS-441524錠による治療の費用についてまとめました。錠剤の費用の変更があったこと、最近は新たな投薬方法によって投薬期間を調整しているため、こちらは最近の50例でまとめました。患者の状況や体重などによって大きく変動するため患者情報も合わせて記載します。

50例の治療成績
 治療期間:66日(45~85日)
 治療費用:393525円(約14万円~83万円)
 再発率:0%

患者情報
 年齢:中央値 9.5ヶ月齢(3~153ヶ月)
 体重:中央値 2.8kg(1.08kg~6.9kg)
 FIPタイプ:ウェットタイプ 39例・ドライタイプ(眼・神経含む) 11例
 治療選択:レムデシビルで開始 16例・GS-441524錠で開始 34例

*初回治療のみのデータです。
*いずれの値も中央値(値の範囲)で記載しています。
*費用は税込の金額で算出しています。
*2024年7月の目安です。輸入薬を使用しているので今後の入手状況や為替の状況で大きく変動する可能性があります。

当院ではレムデシビル・GS錠での治療は治療反応を診ながら治療期間を調整していますので、他院に比べると費用面は抑えられている可能性がありますが現在の治療方法では薬剤費で40万円ぐらいがひとまずの目安になります。その他の必要に応じて治療費や検査費用などがかかるので総費用はもう少し上がりますが、従来に比べてると費用は抑えられるようになってきていると思われます。もちろん猫ちゃんの症状や体重などによって変動しますので、詳細な費用につきましてはお問い合わせください。
今後、併用薬などを含めてより短期間での治療、結果として費用の抑えた治療ができるように引き続き研鑽していきます。

いずれもあくまで当院の成績でありますが、治療選択の参考にしてください。

 

文責:

神戸アニマルクリニック

院長 神吉 剛

  • クリニックノート特別セミナー講師
  • 朝日新聞取材(DEGITAL、紙面)
    「助からなかった」ネコ感染症に光明 新型コロナで治療薬進化、劇的な改善猫伝染性腹膜炎」
  • 第41回日本獣医師会獣医学術学会年次大会
    シンポジウム「猫伝染性腹膜炎(FIP)の最新情報」パネリスト
  • 学会発表
    動物臨床医学年次大会2022年
    「GS-441524耐性を疑ったFIPにモルヌピラビルが奏功した1例」

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