人の健康管理でも「メタボ」という言葉が浸透しており、ダイエットの方法などについてメディアでもよく取り上げられていますが、 犬や猫においても肥満は健康に様々な悪影響を及ぼす可能性があるため、体重管理をして肥満を予防することが重要です。
犬の先祖である野生のオオカミには肥満が見られないことからもわかるように、通常食べ過ぎると、 脳の満腹中枢から「もうそれ以上食べなくてよい」と指令がくるため、肥満は起こらないはずです。 (もちろん、野生のオオカミは過度の栄養を取り入れるだけの獲物を得る機会が多くないということも一因です。)
それでも、実際に肥満は起こってしまいます。
肥満は比較的近年にみられ、まだまだ人類をはじめ、動物が適応できていないと考えられているため、うまく調整できない場合があるようです。
原因
摂取エネルギーと消費エネルギーの不均衡。
肥満とレプチンの関係
肥満に関係する脂肪細胞由来のサイトカイン(ホルモンに似た物質の総称)の1つにレプチンがあり、レプチンは本来過剰な摂食行動を阻止する役割を担っています。
人の医学では、肥満によってレプチンの血中濃度は有意に上昇するとともに、肥満患者ではレプチン抵抗性がみられるため、 本来のレプチン作用が不足し肥満の悪循環を招くと考えられています(下図参照)。また近年では、このレプチン等について獣医学領域でも研究が始まっています。
通常の場合
肥満の場合
肥満の疫学
動物病院に来院した総数のうち、肥満であるとされている割合が犬では約30%、猫で約25%と言われています。
また、都会においては約50%の犬や猫が肥満であるとも言われています。
(都会において、室内飼いの割合が増えることなどに影響されるため)
※ちなみに、ヒトでは・・・
男性(40~60代)の肥満の割合は30%を超えています。
参考)厚生労働省HP“日本人の肥満”
※犬や猫の飼い主ではコロコロしてかわいいという考えを持っている場合があります。
肥満の怖さを再確認して、体重管理をすすめましょう。
肥満の定義
肥満の定義「体脂肪が過剰に蓄積した状態」のこと。
※犬・猫では、BCS(ボディコンディションスコア)、RBW(相対体重)によって体脂肪率の評価をします。
肥満の分類
---原発性(単純性):複数の遺伝子と環境因子の相互作用によって起こる多因子遺伝疾患
---症候性:代謝に影響する何らかの疾患が背景にある
(例:甲状腺機能低下症、クッシング、インスリノーマなど)
※肥満は単純に体質や食べ過ぎだけでなく、病気が起因になっている場合があります。ご相談ください。
好発犬種
小型犬:ミニチュア・ダックスッフント、ケアーン・テリア、キャバリア・コッカースパニエル
中・大型犬:ラブラドール・レトリーバー、バセット・ハウンド、ビーグル、イングリッシュ・コッカースパニエル、シェトランド・シープドッグ
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肥満と病気の関係
肥満によって、健康に様々な悪影響を及ぼす可能性があります。
※人でも、関節炎などの整形疾患の悪化や糖尿病、乳腺腫瘍のリスク増加など様々な悪影響について発表されています。
寿命の短縮
ラブラドール・レトリーバー48頭を2群に分けて終生飼育し、その寿命を調査した実験です。 表の通り、自由に食事をして過体重になった群より、カロリーコントロールをして適正体重を保った群で、寿命が長くなっています。
グループ
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BCS
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体型
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寿命(中央値)
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自由採食群
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6.8/9
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過体重
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11.2年(最長12.9年)
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エネルギー制限食群
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4.5/9
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適正
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13.0年(最長14.0年)
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(Kealy et al. 2002)
※BCS:ボディコンディションスコア(9段階と5段階に分けて表示することがあるがこの実験の場合、痩せていると小さい数字、太っていると大きい数字で表現し、適正体重を4.5として考えられる。)
・呼吸器疾患のリスク上昇
・循環器疾患の症状悪化
・膵炎(主に犬)
・脂肪肝(主に猫)
・皮膚感染症のリスク増加(膿皮症やマラセチア性外耳炎)
・関節疾患の悪化
・腫瘍のリスク増加(乳腺腫瘍、移行上皮癌)
など。
肥満予防の方法
①食事管理
✔ おやつは与えすぎていないですか?
「うちの子食事は残すのに、太るんです。」と思われている飼い主様では、ドッグフードは残すけれど、その前におやつや人間のお食事を与えておなかが満たされていることが多い傾向がみられます。
バランスよく栄養素を摂取するためにも、総合栄養食でカロリーをコントロールしながら、おやつは1日の必要カロリーの20%以内におさめましょう。
✔ フードの量は?種類はなんですか?
通常の総合栄養食で、1日に必要なカロリーと食事量を決めて、与えてあげることも良いですが、それではフードの量が少なくて体重管理していてかわいそう・・・と、思われる方も多いようです。
その場合、カロリーの低い総合栄養食のダイエット用のお食事を与えてたり、水分の多いウェットフードとドライフードを一緒に与えるなどの工夫で、ボリュームを減らさずにカロリー摂取を抑えることができます。
✔ おやつは与えすぎていないですか?
ご家族で、お食事を与える方が決まっていないと、知らないうちに何度も食事を与えられる場合があります。
犬や猫のダイエットには家族の協力が重要です。
②運動管理
✔ お散歩はしていますか?
人間は走っているけれど、犬はカートの中で実際は歩いていないなど、外には出ていても、実際自分の愛で歩いていない犬を見かけることがあります。
体重管理のためには、実際に犬に歩いてもらいましょう。
***注意***
運動量の急激な増加は避けましょう。
ヒトでもそうであるように、いきなり今日からダイエットと意気込んで、昨日まで全然運動をしていなかったのに、急に1時間も、2時間も走ったり散歩したりすることで、 膝や腰を逆に痛めてしまったりすることがあります。犬でも同じです。
運動を始めるときは、犬の年齢や体調、それまでの運動量を考慮してスタートしてください。
食事管理や運動管理について、当院にお気軽にご相談ください。
※人間の肥満症では、入院での体重管理や薬物治療、また胃の体積を小さくする手術などがありますが、犬や猫の場合は、基本は食事管理です。