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2023.05.12 猫伝染性腹膜炎(FIP)

猫伝染性腹膜炎(FIP:Feline infectious peritonitis)の治療について②

最新の治療:経口GS441524の治療についてこちらhttps://kami-ah.com/blog/archives/133

従来より、FIPは不治の病と言われており、有効な治療はありませんでした。しかしながら、近年様々な薬剤の報告が出てきており、根治的な治療になる可能性も考えられる状況になってきました。

FIPを何例も経験している身からすると夢のような話ですが、まだまだ完璧な治療法は確立されておりません。また薬剤についても正しい知識をもって使用しないと思わぬ副作用や高額な医療をしたのに効果がなかったなど問題が生じる可能性が高いです。

我々、臨床獣医師として有効なお薬の登場に際し、治療における知識をさらに習得することは非常に重要であり、この度、改めてFIPの治療について文献を片っ端から読んでみました。多くの文献を要旨(まとめ)だけでなく、論文の全文読んでみて気付くこともたくさんあり、新しい発見や選択肢も得られました。

ブログ:FIPの治療について①に続きまして、今回は、これらの文献を踏まえ、現在FIPの治療として報告されている薬について記載します。ただし、文献を全文読むとまた違った見解になるものもあるので、詳しくはお尋ねください。薬剤については現実的に使用可能なものと、まだ使用できないものもありますので合わせて記載します。

FIPの治療について①はこちら⇒https://ackobe.com/column/129-2/
 

抗ウイルス薬

①GC-376:3C様プロテアーゼ阻害剤:FIPウイルスの侵入・増殖過程を阻害する

FIP20頭:平均10.4ヶ月齢、wet or wet−dry 14頭・dry 6頭

20頭中7頭で改善が認められた(休薬後平均11.2ヶ月再発なし)

副作用として注射部位疼痛、若齢では永久歯萌出不良

*現在治療薬として市場には出ていない

 

②GS-441524:ヌクレオシド類似体:FIPウイルスの複製を阻害

FIP 31頭:平均13.6ヶ月、wet or wet−dry 26頭・dry 5頭

31頭中26頭で改善が認められた

副作用として注射部位疼痛

*現在治療薬として市場には出ていない

現在の推奨使用用量は文献発表の時と異なっています。

 

③イトラコナゾール

従来コレステロール細胞内輸送阻害薬がFIPウイルス(Ⅰ型)の増殖を抑制することが知られていた

イトラコナゾールに同様の作用があることが認められている(in vitroでの増殖抑制作用も)

後述の抗TNF-α抗体との同時投与でのデータ

FIP 3頭:9〜10カ月齢

3頭中2頭で臨床症状の改善が認められ30日以上は生存

副作用として肝障害に注意

*市場薬として一般的にもネコに用いられる薬

 

④クロロキン

抗マラリア薬として知られており、FIPウイルスの増殖抑制と抗炎症作用が認められている(in vitro)

臨床症例でのまとまった報告は認められない

*市場薬として入手可能(ヒドロキシクロロキン)

有効量では肝障害が認められている(ヒドロキシクロロキンの方が副作用は少ないとの報告も)。

 

⑤シクロスポリン

シクロスポリンのシクロフィリン結合領域がFIPウイルスの複製阻害に重要であると考えられている

FIP 13頭:平均7カ月、wet or wet−dry 10頭・dry 3頭

9頭でシクロスポリンを投与、4頭で貯留液減少・消失、1頭のみ長期生存

ステロイド群と比べて生存期間の延長は認められなかった。

*市場薬として一般的にネコに用いられる

高用量での使用が必要であり本来の免疫抑制作用によって致死的な問題が生じる場合も(誤嚥性肺炎など)

 

⑥ネルフィナビル

プロテアーゼ阻害薬でHIV感染症の治療薬

まとまった症例報告は認められない:ステロイド、インターフェロンとの併用で181、477日生存との報告

*現在日本国内では入手できない

 

抗炎症治療

⑦抗TNF-α抗体

サイトカインであるTNF-αを選択的に阻害

過剰なTNF−αは過剰な免疫性炎症、リンパ球減少、好中球アポトーシス阻害などに関与

実験的に3頭中2頭でFIP発症予防、VEGFの減少、リンパ球の増加などが認められている。

*市場薬は入手可能だが、ヒト用の製剤のみ

 

⑧ステロイド

様々な抗炎症作用(サイトカインの抑制など)が認められており、従来よりよく使用されている

有効性については様々だが、一時的な臨床症状の改善には有効な場合も多い

*ネコではFIPに限らず一般的に広く用いられている

 

免疫賦活化治療

⑨ポリプレニル免疫賦活化剤

元々ヘルペスウイルスの治療薬として使用されており、Th−1型経路をアップグレードすることにより細胞性免疫を活性化させる

FIP 60頭:Dry typeのみ

生存期間 16頭 100日以上

8頭 200日以上

4頭 300日以上

2頭 900日以上

1頭 1829日

*ステロイド併用例の方が生存期間が優位に短い:ステロイドとの併用不可?

猫ちゃんでの承認薬だが海外のみ

 

以上が現時点でFIPの治療薬として可能性のある薬です。

当院では市場薬として販売されているものはいずれも使用可能です。MUTIANについても在庫はしておりますが、使用にあたっては十分に注意と理解をいただく必要があります。

知識として様々な選択肢を持ち単一のものに頼るのではなく猫ちゃんの状態やコスト面など飼い主様にあった選択肢を提示し、その選択の中で最大限の結果を出すことが獣医師としての責務だと思っています。

FIPの診断や治療でお悩みの際は一度当院までご相談ください。

 

注)HP移管のため、2021/04/01に投稿した内容を再掲載しております。

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