犬と猫の尿路尿石症は、日常の診療で比較的よく遭遇する疾患の1つです。
尿路尿石症とは尿路(*)のいずれかの部位で形成された結石が引き起こす炎症、頻尿、乏尿、閉塞などのことです。
結石が尿路にあることで、疼痛により元気食欲が低下したり、血尿・頻尿を引き起こす、結石や炎症により生じた炎症性物質や血餅などが尿路に詰まって尿を出せない場合は短期間で命に関わることがあります。
何らかの排尿時の変化や、全身状態の変化(食欲元気の消失や嘔吐など)などがある場合は、急ぎで受診してください。
*尿路とは、尿が排泄される通路のことで、腎臓→尿管→膀胱→尿道の総称です。
今回は、特に、尿路の中でも、膀胱結石について説明します。
【結石の種類・疫学】
結石の種類は、ストラバイト(リン酸アンモニウムマグネシウム)、シュウ酸カルシウム、尿酸結石、シスチン尿石、その他、多種類ありますが、犬と猫に多く認められるのは、ストラバイトおよびシュウ酸カルシウム結石です。
参考)膀胱結石の割合(2020年ミネソタ尿石センターによる報告)
―犬 ストラバイト(40%) シュウ酸カルシウム(35%) その他
―猫 ストラバイト(52%) シュウ酸カルシウム(36%) その他
余談ですが、ストラバイトというのは、鉱物学に造詣の深かったHeinrich Christian Gottfried von Struveさんという人の名前にちなんでつけられたそうです。
代表的な結石である、ストラバイトとシュウ酸カルシウムについて、以下、解説していきます。
・原因:
細菌感染に関係する「感染性ストラバイト」と細菌感染とは関係のない「非感染性ストラバイト」があり、犬では感染性ストラバイト、猫では非感染性ストラバイトの割合が多いです。
感染性ストラバイトでは、
尿路の細菌感染(特にウレアーゼ産生菌:大腸菌、ブドウ球菌や腸球菌など)+その他の原因→尿の㏗をアルカリ化させることとなりストラバイト結石が形成されます。
感染に対する抗菌薬や食事療法で管理されます。
非感染性ストラバイトでは、食事性要因が関与することが多く、食事療法による管理が
推奨されます。
・治療:
―内科管理
感染性の場合は、適切な内科治療(抗菌薬)+食事療法を行います。
非感染性の場合は、食事療法が主体です。
ストラバイトは尿の㏗を6.0~6.3以下に低下させると溶解することから尿の㏗を管理できる尿路結石用の特別療法食を積極的に活用することが重要です。
尿路結石用の特別療法食は、pHの調整、ストラバイトの成分となるマグネシウムを制限(調整)、飲水量・尿量を増加させる目的でナトリウムやカリウムが調節されているものが多いです。
尿路結石用のサプリメントを推奨する場合があります。
お水を飲む量を増やします。尿路結石用の缶詰やパウチの活用も有効です。
―外科手術
食事療法による結石の溶解が乏しかったり、結石があることで疼痛により元気食欲の消失があったり、閉塞を繰り返して管理が難しい、またすでに結石が巨大な場合などでは外科手術が適応になることがあります。
・原因:
シュウ酸カルシウム結石のリスクファクターは、遺伝性、食事性、高カルシウム血症や原発性副甲状腺機能亢進症に伴う高カルシウム尿症、薬剤の影響等があげられます。
・治療:
―外科手術
シュウ酸カルシウム結石は、治療困難な結石症で、食事療法や薬などにより尿の㏗を調整することによって溶解することは難しいため、結石を除去するためには外科的摘出が必要となります。ただし、外科手術後、再発防止を行っているにもかかわらず再発率が高く(3年以内に50~60%再発)再発防止策を徹底して行う必要があります。
―内科管理
シュウ酸カルシウム結石がすぐに全身状態に影響を及ぼす可能性が低い場合は、食事療法、飲水療法、サプリメント、ビタミン剤の投与などにより経過観察を行う場合もあります。
内科管理での経過観察中および外科手術後の再発予防のためにも、シュウ酸カルシウム結石の食事管理は非常に重要です。
・尿路結石用の療法食を使用し、カルシウムとマグネシウムのバランスを調整、尿のpHを調整(㏗6.6未満(酸性)になると形成が助長される傾向あり)、オメガ3脂肪酸の摂取により抗炎症作用を期待するなどが必要です。
脂肪分や塩分も控える必要があります。
原則は、療法食のみで生活をしていただくことを推奨します。
おやつも、特別に調整された商品のみを推奨します。
例)ロイヤルカナン ユリナリーS/O トリーツ
ヒルズ 特別療法食トリーツ
・シュウ酸の多い食材(ほうれん草、たけのこ、ブロッコリー、芋類など灰汁の多い食材、バナナなど)の摂取をしない
参考)文部科学省の食品データベース
https://fooddb.mext.go.jp/ranking/ranking.html
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このようにストラバイトもシュウ酸カルシウムも食餌管理がコントロールする上で非常に大切です。様々な会社から尿石管理のための特別療法食が作られています。
尿石管理が必要な場合は尿石コントロールに配慮されたご飯のみを与えていただくのが理想です。
当院では、ロイヤルカナン、ヒルズ、プロプランVET(ネスレ)、ファルミナ、Dr’sダイエット、ビルバック、サニメドなど、エビデンスに基づいた食事を提供しているメーカー様の製品を推奨しております。
【その他尿石管理の重要なこと】
―おしっこを我慢させない
トイレを清潔に保ち、多頭飼育の場合はトイレの数を増やしてあげましょう
特に猫ちゃんではトイレの数=頭数+1が理想です。
参考)
猫ちゃんの場合、トイレに対するこだわりが強いことが多いです。
・サイズ:隊長の1.5倍
・設置場所:部屋のすみで、ゆっくり排泄できる場所。
・夜:真っ暗な部屋より薄暗い方が好ましいことが多い
・トイレを気に入っているかどうか:野外での排泄の様子(しっかりと砂をかき、おしっこをじゃ〜っとして、その後またしっかりと砂をかいてからトイレを出る)と同等の排尿ができているようであれば、猫ちゃんがトイレに満足していますが、粗相したり、短時間でとっととトイレを去ろうとする場合は、あまり気に入っていないかもしれません。
・砂の種類と量:たっぷりの量を入れる。砂、木屑チップ、ビーズタイプ、紙タイプなど様々ですが、好みによります。一般的には砂タイプを好む猫ちゃんが多いようです。
二層式のトイレ(にゃんとも清潔トイレ)では、尿検査時に採尿しやすいというメリットがあります。また、尿の色や量の確認も行いやすいです。
ただ、猫ちゃんのトイレに対する好き嫌いがあるため、好みに合わせてください。
―水分摂取量を増やす工夫をしましょう
いつでも清潔な水が飲めるようにする
水飲み場を増やす
トイレとご飯の位置を離す
ウエットフードに変える
ドライフード(カリカリ)をふやかす
―体重管理をする
肥満は尿石症のリスクファクターです
肥満→運動量の低下→飲水量の低下を招きやすいです。
また、脂肪の増加により、体が酸化されやすく、シュウ酸カルシウムのリスクが上がると言われています。
【検査】
原因となる尿路結石の成分は、外科手術により結石を取り出して分析にかけることで特定できますが、必ずしも外科手術が必要にならないこともあり、日常の診療の中では尿検査やレントゲン検査などにより成分を推定し治療していくことになります。また、エコー検査により、膀胱内の結石や粘膜の状況を確認する必要もあります。
*尿検査のため、尿のご持参をお願いすることがありますが、採尿されましたら極力短時間でお持ちください。
長時間放置された尿や気温の変化にさらされた尿では、尿の性質が変化したり、排尿後の尿の中で結晶が析出してしまうことがあり、誤った判断をまねく場合があるため注意が必要です。
文責:獣医師 花房 侑希